その日のために。

延命治療のことを前にも書いたのだけど、ここのところまた、人の命について考える出来事が立て続けにあったので、再度ふれてみたい。ふれてみたいというか、伝えておきたいと思う、1人でも多くの人に。
ちょうど前回記事をアップした当時、救命救急の現場に携わる人から、こんな話を聞いた。「患者さんが緊急搬送されてくると、延命治療(気管内挿管)を施すかどうかをご家族に確認します。それをすると、意識が戻らなくなる(=いわゆる植物状態)可能性があることは充分に説明しますが、大抵『できることは全てやってください!助けてください!』と言われます。しかし、結果として、命は助かったものの昏睡状態が長期にわたると、最初は毎日病院へ来ていたご家族の足もだんだんと遠のき、『あんな状態になることは望んでなかった!』とか、『ちゃんと説明を受けなかった!』と言われてしまうことがあるんですよ」
…そんなこと言われたらやってられないだろうなぁ、と思いつつ、家族の気持もわからないでもない。ちなみに気管内挿管とは、自律呼吸が困難な患者の気管に口から直接チューブを入れる、あれのこと。病気が回復して抜管する場合はいいが、回復の見込みが無い患者に延命目的で挿管したら、医師はもうそれを抜くことはできない。苦しそうだからってうっかり抜いたら殺人罪に問われてしまう。だからこそ、挿管の前には家族にしっかりと説明するのだけれど…家族の緊急事態に、その説明を受けてしっかり考えることの出来る人が、どれくらいいるか。

説明をする側にとっても、"回復の見込み"というのが非常にやっかいで、YES/NOでは答えられない。「回復の見込みはありません。挿管して延命しても意識はもどりません」とは当然断言できない。「挿管して命をつないで、しばらくしたら意識が戻る可能性が…、ないとは言えません」なんて言われたら、普通は「じゃあやってください」となるだろう。

因みにうちの母の場合は、家族の同意がどうのこうのという状況ではなく緊急手術になってしまったので、病院についた時には挿管どころか手術まで終わっていた。ただ挿管以外にも心臓マッサージや昇圧剤など延命措置が色々あるので、それぞれについて、家族として判断を求められた。でもドクターの説明は、私の隣で聞いていた父の耳には全く入っていなかったと思う。多くの人はそうなるのが普通だろう。私のようにメモを取りながら客観的に説明を聞く人は、たぶんそんなに多くないはずだ。

日本の法律下では、家族がNOと言わなければ、医師は、どんなに回復の見込みが無くとも延命につとめなければいけない。挿管する。薬で血圧を上げる。肋骨が折れても心臓マッサージをする。"回復が望めない場合の延命措置"とその意味について、簡単にでもいいから一般にもっと知られていてもいいんじゃないかと思う。知識ゼロでその日、その場に臨むよりは、ずいぶんわかりやすく説明が聞けるはずだ。やみくもに「できることは全てやってくれ!」と丸投げしないで、ベストの判断が出来るよう考える助けにもなるだろう。例えば学校の保健体育の授業なんかで、応急処置と一緒にちょっとでも取り上げてもらえたらいいのにと思う。…でも医療費のことを考えると、ひょっとしたらここにも"大人の事情"が裏で幅を利かせてたりするんだろうか。だとしたら救いようがないのだけど、少なくとも普段から家族で話しあっておくことは有効な手段だと思う。