It's a small world

3か月ぶりにBarの扉を開けて、空気を入れ替えて、カウンターを拭いて…。そんな風情で、しばらく書けなかった(というか書く時間もなかった)徒然を、また綴っていけたらいいなと思います。自分の中にあるものを文章という形にして外に出すことが、やっぱり好きだから。癒しになるから。


ここは、私にとって、家族の話を持ち出す場ではありません。この先も、持ち出すつもりはありません。だけど、これは書くべき内容だと思うし、書かないと、この先この「Bar」を続けられなさそうです。



7月に母親を亡くしました。あまりにも突然、そしてショッキングな出来事であり、私の人生をこの100年の世界に例えるなら、世界恐慌くらいのインパクトがある出来事だったと思います。それでも、まだたった3か月しか経っていないのに、母が(その命の代わりに)与えてくれたものはとてつもなく大きく、たぶんこれからもたくさんの贈り物を受け取っていくんだろうという予感があります。

果たして、生前の母と言えば、これという趣味も無く、旅に出ることも嫌いで、私から見ると「お母さんて、自分の楽しみとか無くて大丈夫なんだろうか?」と心配になってしまうような人でした。私には、母が「小さい世界の中だけで小さく生きている人」にしか思えなかったのです。「小さい世界」というのは、それこそ住んでいる地域や、親戚と関わっている世界。一方私はと言えば、逆に「広い世界」ばかりを見ている人間でしたから、母を見ると、ずいぶんつまらない人生を送っているように思えてしまったわけで。しかし、亡くなって、葬儀をして…という期間を通じて、それがなんと愚かな思い違いだったのかと衝撃を受けました。この年齢になれば、葬儀というものを経験する機会も多く、その様子ってだいたい思い描くことができますよね。でも、母の葬儀は、その「想定」を超えていた。「若すぎた」とか「突然すぎた」という要素を除いたとしても、その「小さな世界」の人たちの悲しみは「私が予想していたレベル」をはるかに超えて深く、その姿に心を打たれた(なんかこうやって書くと他人事みたいになってしまいますが)し、その人たちが口々に語ってくれたエピソードは、その「小さな世界」で母がやってきたことの「偉大さ」を物語るに十分なものばかりでした。母がやってきたこと、色んな人の心に残したものは、私が「広い世界」でこれまで残してきたことなんかよりずっと大きいんじゃん!という衝撃。お母さんスゴイ!という驚きがありました。また、「スゴイ!」と思うだけではなく、その「小さな世界」を私自身も大切にしていこうと思わせてくれたことは、とてつもなく大きな変化です。訳あって、私は「あえて」その小さな世界から離れて生きてきたので、そこにある幸せに触れることができるようになったことは、母からの大きな贈り物の一つです。

また、母がああして本当に急に亡くなってしまったことを通じて、「そばにいる人を大切にしないといけない」という気持ちが私の周りの人に生まれつつあることを、とても嬉しく思います。「もっとああしてあげればよかった」とか、「あんな言い方しなければよかった」とか、後悔をしないように、目の前にいる人に対して優しい気持ちで接するようになったよ、なんて話を友人から聞くと、本当に「あ〜、母の存在が、みんなの中に生きているんだな〜」と、幸せな気持ちになります。私の大切な人たちが、「より優しい気持ちで生きていこう」と思ってくれているなら、それもまた母からの大きな贈り物です。


「母が亡くなってしまった」という事実は、ショックであり、私にとっても私の周囲にとっても辛いことであるのに変わりはないのですが、その中にも「いい面」がたくさんあるのです。そういう、母からの贈り物を、毎日毎日私は受け取り続けています。それに気づけている自分が好きだし、健康で生きていることにより一層感謝して生きられるようにもなりました。ポジティヴすぎて気持ち悪いと言われるかもしれませんね。ちなみに、母は筋金入りの"negative thinker"でしたが、ものごとをネガティヴにとらえることで、いいことなんて何一つないと私は思っています。先の事をあれこれ心配したり、守りに入ったりしたい人は、どうぞお好きにそうすればいい。でも、私にとっては、それは全くバカらしく、意味のない事です。それがはっきりとわかったことも、大きな財産だと言えるでしょう。


こんな風に「いい面」ばかりを取り上げて書いていますが、それは別に無理をしているわけではなく、また「辛い事なんて何一つ無〜い♪」というノーテンキな人間なわけでもなく、この場が「ブログ」だからです^ ^; こんなことがあって、辛い事が無いわけがない。でも、「ものすごく大変だった」こととか、色々な愚痴だとか、そんなことはここに書く気にもなれません。苦労話は、目の前で話を聞いてくれる人にすればいいのだから。そうできる人が、近くにもまわりにもたくさんいることは、すごいことです。今回のことで、パワーや励ましやシンパシーを送ってくれたたくさんの人に感謝するとともに、これから一つでも「お返し」をしていけたらいいなと考えています。
どうぞ、また Bar de nacci を訪れていただけますように。


母の誕生日に、愛を込めて。
nacci