「missing story」

窓際の席で女の子がふたり
ずっと楽しそうに話し込んでいる
僕はひとりで、そんなふたりを眺めている。



いったいどこにそんなに話すことがあるのかと
少し肩をすくめてみたり
うらやましく思ってみたり
それにしてもびっくりするくらい
みんな話すことがあるもんだ。



僕は最近、人と話すのが苦手になった
前よりも、もっとずっとそうなっているみたい
目の前の人と話していると
頭と身体がずれてしまったように
自分がどこにいるのかわからなくなる。



むかし、君はまるで何かの才能があるかのように
僕の話を井戸の底からひっぱり出していた
ひっぱり出しては眺めていたら
そのうちのいくつかは随分と価値のあるものに思えて
自分でもびっくりしたもんだ。



あの井戸がすっかり枯れてしまったのか
僕が話すべき物語がもう全部終わってしまったのか
もうなにも出てこないんだ
でも空っぽにしてはやけに苦しい
どうしたらひっぱり出せるのか
君にもっと聞いておけばよかったんだけど。



あともう少しで
物語も言葉も要らなくなる「とき」がくる
その前に少しだけでいい
言葉をつなぎとめたい気持ちになる
きらきらと遠い物語の中に君を探す
「とき」がくる前に。
その前に。