☆風が強く吹いている

風が強く吹いている (新潮文庫)

風が強く吹いている (新潮文庫)

ここ何か月か本を読んでないなぁと思って手に取った一冊。通勤時間にじっくり読もうと思ったのに、案の定二日で読んでしまった。中毒…。
ところでこれって2009年に映画化されてるんですね。当時は邦画というものにほとんど興味が無かったのか?それとも内容が箱根駅伝だからか?割とよく読んでいる三浦しをん氏の著書にも関わらず、タイトルにさえ聞き覚えがありませんでした。
今年の箱根駅伝も終わった今、なぜ今頃この小説を手に取ったのか。それは友人にすすめられたからです。彼女はいわゆるスポ根の世界とは真逆の位置にいるようなタイプで、当然箱根駅伝などに興味があるはずもない人。それが「面白かった。通勤中なのに気づいたら涙が頬を伝っていた。しかも正月に箱根駅伝をテレビで見てしまった。」などと言うので、俄然読む気が湧いてきまして。

私は、陸上にも箱根駅伝にも興味がありません。毎年正月になると親が必ずテレビで駅伝を見ていたので、「何が面白いのか全くわからん」とよく言っていたものです。「タスキをつなぐところにドラマがあるのよー」などと母はよく言っていましたが、いや、わからん、と。すすめてくれた彼女も当初は「箱根駅伝をテレビで見る人の気が知れない」なんて言うタイプだったはずなので、じゃあ私も読んでみようかな、と。

駅伝ほぼシロウトの大学生集団が、たった1年で箱根駅伝を目指す!という、考え方によってはとんでもなく非現実的なのであろうお話。やっぱり「ありえない!」という批判がけっこうあったようですが、それでも著者が大学陸上部の駅伝合宿に同行し、駅伝ルートを取材し、6年の歳月をかけて書き上げたというこの大作は、多くの駅伝経験者から受け入れられてもいるそうです。駅伝の区間は10あるので(私はそれさえ知らんかった)、同じ下宿に住む10人の若者が登場します。10人の登場人物をそれぞれキャラクタライズするのって大変だろうな〜なんて思いましたが、特に挿絵などなくとも一人ひとりがシッカリ浮かんでくるくらいでしたね。ちなみに双子が一組入っていましたが、私も書き手だったら双子を入れるなぁ。ひとり分サボれる気がするもの。キャラの薄い人もいましたが、現実世界でも10人のグループ全員のキャラが立っていては、ちょっとうるさいからね。

で、結果的に、はい、面白かったです。っていうかこれ、しをんさん大好物なネタですよね。一つ屋根の下、10人の男がアツく…みたいなの。しをん節、炸裂。駅伝どころか陸上競技自体ほとんど知らない私のような者でも、走っている時の視点だとか、駅伝の魅力だとか、いったい何のために走るのかとか、そういうのがきちんと理解できて楽しめるのがいい。もちろん著者の綿密なリサーチの賜物なんでしょうけど、そのおかげで自分も走りを体感できる。これって正に読書がもたらす快楽の一つですよ。映像じゃダメ。読むことで、自分も走ることができるんです。そういう意味で、小難しいこと抜きで、久々に読書の純粋な楽しみみたいなものを実感することができた一冊でした。

読み終わった今では、駅伝の各区間の特徴まで、だいたい頭に入ってしまっています。花の2区!とか、山越え5区!とか。時代劇に続いて、「あんたが箱根駅伝を語るなんて・・・」と天国の母が言っていることでしょう。母よ、来年の箱根駅伝は、多少なりとも見る気になったぞ。っていうか、現地で見ちゃうかも?!