☆色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

じっくり読もうと思ったら結局一日で読み終わってしまった。。
村上春樹氏の新作が出るとお祭り騒ぎのように取り上げられるようになったのは、「1Q84」あたりから?その頃からか「村上春樹が好きだというヤツは、本当はよくわかってないくせにわかったような顔をして読んでいる」とか「一種のファッションとして手にしているだけ」とか、散々な言われようですね。私は中高生の頃から特に気に入って読んでおります。そして1作品あたり平均して3〜4回は確実に読んでいるので、「ファッションとして読んでいる」のとは少し違うかなと思っています。だけど、ファッションとして読んでいたって別にいいのでは?だって持ってるだけでカッコいい感じがして、めっちゃ売れてるなんて、それだけでもすごい。だいたい「よくわかってないくせに」って何だ?!そもそも「よくわかるため」「誰が読んでも共通するゴールに辿り着くため」にハルキ本を読んでるハルキストなんていないっつーの!だいたいがそこまで「万人受けする作家」じゃないと思うのに、周囲が勝手に喜んでお祭り騒ぎを起こしているだけなんじゃないのかなー。できれば静かに読ませてほしいものです。


あ〜前置きが長くなった。本の感想。(注:ひとりごとなので、購入するかどうかの参考になるようなブックレビューではありません)

今回は「読みやすい側」の作品。1Q84では挫折してしまった人でもこれなら最後まで読めるのでは?なぜなら基本的には「私たちの目に映る世界」の出来事でストーリーが完結しているから。「リトルピープル」も「マザ」も「ドウタ」も出てこないし、空には一つしか月が浮かんでいない。笑
読み始めてすぐに「おっと真正面から哲学系にきましたか」と思う。これまでの作品にもさんざん哲学的要素はちりばめられていたけれど、今回はけっこうダイレクト。「容器」としてのカラダについて、「わたし」という意識について、「名前」によってうまれる自我について。心と世界の関係について。ヨガ・スートラの講義を受けている時のように、頭の中の哲学的好奇心がちくちくと刺激される。とはいえストーリーはいたってシンプル。多崎つくるという青年の人生のひと時について、静かに綴られていく物語。ハルキ本を読むとき、私は森の中を歩くようにその世界を散歩しながら、色んな宝物を見つけていく。それが楽しくて読んでいるといってもいい。今回も、そんな宝物が溢れた一冊だ。けっこうスキ。

さて。今回も例によって登場するのが「完全なる調和」と、それがいつか崩壊することに激しく抵抗する登場人物。これまでの作品での「完全なる調和」は、いつも一組のカップルによってもたらされてきた。「ノルウェイの森」の直子とキズキ、「海辺のカフカ」の佐伯さんと恋人。でも今回はカップルではなく高校時代の友人5人グループだ。私には、ハルキ本に登場する「完全な調和」がどうもピンとこない。だって「完全な調和」なんて存在しえないと知っているから。完全に調和してしまったら、もうこの世のものではなくなってしまう。ビートルズは解散したし、Gleeのメンバーも卒業してしまった。壊れると知っているから美しいのであって…。ハルキ本に何度も何度も登場するこの「完全調和」「閉じたループ」って何なんだろう、といつも興味深く眺めている。誰の人生にも一瞬のきらめきが訪れることがあるけど、その一瞬に閉じ込められてしまう人がいっぱいいるっていうことなのかなぁ。「万物は流転する、のが『常』で、ぜ〜んぶひっくるめて自分の一部!」とか考えている私からすると、その調和にしがみつく登場人物(いつも女性で、いつも死んじゃうのよね。あ、ネタバレ)の心境に至ることは一生無いよな、と冷ややかな気持ちでいつも見てしまう。それでも気になって、何度も読んでしまうのだけど。

今回は、主な舞台が「ちょっとした都市なのに超閉鎖的」な我が故郷、名古屋です。閉鎖的だからこそ、閉じたループの舞台に選ばれたんだろうか…とちょっと気になるところです。名古屋出身の方、感想を待つ!